Vol.37 『名月会議』　の巻

殻牡蠣のチーズ焼き

「坂本サァー、こんカキの上にのっかっとーフワフワして～良か香りばぁしちょるもんは何でごわすか？」
「西郷どん、これは”チーズ”言うがぜよ。南蛮からポルトガル人が運んで来よった、牛の”ちち”から作ったもんで、まっこと旨かもんぜよ。のお勝先生？」
「長崎の出島の伊太利食堂には、これをお好み焼きみたいに焼いて食べる”ピッツァー”ゆうもんもあると聞いてるぜ」
「あっ、それこの間龍馬さんが二枚買ったら、一枚只になった”あれ”ちゃいますか？❤」
と龍馬に酒を注ぎながら、おりょうがポツリ。

名月会議

時は江戸城が無血開城されるほんの少し前、甲州街道八王子宿にある居酒屋”名月屋”において、どの歴史書にも載っていない、ある秘密の会合があった。それは西郷隆盛と勝海舟の話がなかなかまとまらないのを気遣った坂本龍馬が妻おりょうと共に、旨い料理と酒でこの二人の頑なな心を開かせた、俗に「名月会議」と言われるある満月の夜の事であった。

風呂吹き大根胡桃味噌

「私的にはこの”ふろふき大根”のほぉーが好っきやわぁ～　この胡桃のお味噌の何と香ばしいこと。お出汁しみしみのお大根との相性よろしおすなぁー　まるでわてと龍馬さんみたいどす❤」

熱々蟹雑炊

「あはは～　ほんにお二人は熱々で～こん鉄鍋の中の”カニ雑炊”のよ～でごわす。」

海老真丈の土佐揚げ

「俺はサァー、この揚げ物の”海老真丈の土佐揚げ”に日本の未来を感じるぜ、薩摩の蓮や椎茸で江戸前の海老を挟み、土佐の鰹節でまぶして揚げてある。仕上げのこの出汁を一口飲んでみねぇ。京の都の香りがするじゃ～ねぇか。」

豚と茸のズッキーニ包み

「それを言うたら、こん蒸し物の真ん中でドンと構えちぅー豚の角煮はまっこと西郷どんぜよ。桜島みたいにほんのこつ堂々としちう。周りのしめじと銀杏はさしずめ大久保と木戸ぜよ。」

酔鯨

「ところで坂本君、今飲んでるこの酒はいったい何だい？　やけに旨いけどこの辺のもんじゃねぇな？」
「さっすが勝先生！！　こん酒は海援隊がいろは丸で今朝土佐から持って来よった高知の”酔鯨”ですら。旨かこつは容堂公のお墨付きじゃけぇ～」
「へぇー、酒好きのあの爺さんがこいつを飲んでるんかい。旨いはずだなー」

お刺身盛り合わせ

「わしゃー何ち言うても、こん刺身が一番じゃけー　旨か刺身は鮮度が大事じゃけーのぉ。あんまし長いこつ、あーだこーだ、考えちうと、どんどんまずうー成ってしまうぜよ。二人共言いたい事は山ほどあろーけんど、ちくっと急いで、活きのいい日本という刺身の盛合せ作らにゃあかんぜよ。」

あん肝

「徳川って云うでっかい鮟鱇はずいぶん傷んじまったが、俺が最後に肝だけは酒蒸しにして大事に残してあるぜ。慶喜公の事については何としても打ち捨てる様な事のねえよーに、西郷どん一つ頼むぜぃ。」

「いや～今宵はまっこと良～考えられた旨か料理ばー　ご馳走に成り申した。勝さぁと坂本さぁのおん気持ち、この西郷　太か腹にしっかり頂き申した。どげんこつしてもわし達の手で新しい日本を創って行く覚悟でごわす。」

固いシェイクハンドをかわし、西郷どんと勝海舟は名月屋をあとにし、ほどなく龍馬とおりょうさんもお向かいの旅籠”東横院”に帰って行きました。
いやぁ～、無事話がまとまってほんのこつ良か夜でございました。今夜も遅くなりもうした。今回の”名月日記”はこの辺で良かろーかい。

追伸
本日は坂本様に頼まれて名月屋張り切ってお料理させて頂きました。無事お話し合いがまとまったとの事、私共恐悦至極の喜びでございます。ところが皆様お帰りになるおり、どなた様もお代金をお支払いになっておらず、後日坂本様に御請求書をお送り致しました処、坂本様よりご丁寧なご返事が届きました。

「先日、名月屋さんはまっこと日本の為に成る事をしよったがぜよ。飲み代はその内わしが”絵素絵奴絵主”の口コミに”名月屋”の料理の旨さを書いちゃるけん、それで勘弁しいや」との事でございました。さてさてその”絵素絵奴絵主”とやらが何か分かりませんが何やら楽しそうな様子、いつの日か見られる事を楽しみにしております。
－親方－