Vol.36 『運命の悪戯』 の巻
2017.11.09
ただ波の音だけがしました。彼女は夕陽に光る空を見ていました。桟橋の先でブランと足を下ろして、じっと空を見ていました。彼女の背中が小さく震えているのが少し後ろにいる僕にも分かりました。ただ波の音だけがしました。僕の手の中のペットボトルはもうすっかりその温かさを失い、何か大事な物がもうすぐ無くなって行く事を僕に教えてくれました。僕は後数歩を歩く事が出来なくて、変わっていく空と海の色にただ怯えていました。
もう波の音はしません。
聴こえるのは僕の心臓の悲鳴だけとなりました。
これが”最後の日記”になると思うので今から皆さんにいったい僕達に何があったのかお話しします。
実は先日、うちの両親と彼女の御両親を招待して”名月”で食事会をした時の事です。父の顔を見た途端、彼女のお母さんが気分が悪くなったのか急に帰ってしまったのです。父も後を追う様にすぐ出て行ってしまい食事会は散々な事になりました。夜中酔っ払って帰宅した父を問い詰めると、とんでもない告白をされました。実は彼女のお母さんは父の最初の奥さんで僕の本当の母親なんだそうです。僕がまだ二才になる前に二人は別れてしまい、その後すぐお母さんは彼女を産んだそうです。
僕達は実の兄妹だったんです。
「そーゆう訳だから絶対に結婚してはいけない!」
と強く言われました。
その夜、彼女から泣きながら電話があり、お母さんから同じ事を言われたそうです。それからすっかり自暴自棄になってしまった彼女は
「だったら私と一緒にこの薬を飲んで!!
二人で楽になりましょう!」
そう言って薬の瓶を握りしめて
今、僕の買ってくる飲み物を待っています。オレンヂの光が海に落ちた時、彼女は急に振り向いて僕を見つめると哀しそうに少しだけ笑ってくれました。ようやく彼女の隣に座ってジャスミン茶を渡すと
「あれっ?? 吉田君、お水買って来なかったの? 風邪薬を飲む時はお水の方が良いんだヨ~」
えっ!!ええ~!!風邪薬??風邪薬だったんだぁ゛~。
鼻水をたらしながら目が覚めた僕の机の上には、さっき飲んだ風邪薬とジャスミン茶がありました。あー夢で良かった~^^; そんな訳でその夜は予定通り”名月”で両家顔合わせの食事会をしました。
今日の
”名月おまかせコース”
は秋の献立で、まずビール でカンパイの時には大粒の
「焼き銀杏」
それから今月の地酒 三重の
「滝水流(はやせ) 辛口純米」
と
「プリプリのお刺身盛り合わせ」
すだちを絞ると”ぷう~ん”と秋の香りの
「蛤と舞茸のどびん蒸し」
には鱧も入っていて、お出汁が絶妙でした。
煮物は裏ごした里芋の中に大きな栗が入ってる
「里芋栗饅頭」
で上から鶏のそぼろ餡がかかっていました。
「茸の天ぷら」
にも栗が入っていて、これは海老のすり身で包んでいて驚きました。
その後の
「牛タンと茸の朴葉焼き」
のお味噌の少しこげた香りがたまらなく呑欲を刺激しました。
「このお味噌はリンゴとかセロリとか色々入れて作ってるんだよ」って親方がそっと教えてくれました。
最後に
「秋刀魚寿司」
が出てきて、みんな大満足で食事会はお開きとなりました。
僕は変な夢を見たせいか少し心配していたんですがすべて上手くいって、あー良かったで~す^o^
皆さんにも色々ご心配おかけしましたけど、多分もーすぐ良いご報告が出来ると思います。ど~か楽しみにしていてくださいね^o^
---吉田---
PS.1
吉田君は気がついていなかったと思いますが、今日は母の様子が少し変でした…… あとでそれとなく聞いてみます^^;
---彼女---
PS.2
あー今日はビックリしましたー こんな形で彼にまた会うとは…… これも運命なのかしら……
---彼女の母---
PS.3
こんな事ってあるんだな~ あー驚いた~ でも昔より綺麗になってた様だ。こりゃ~絶対に秘密にしておかないと……
---吉田君の父---
親方からのお知らせ
吉田君の日記を最後まで読んでいただいてありがとうございます。
御来店お待ちしております。
次回の「吉田君の名月日記」をお楽しみに!!