Vol.38 『ああ名月や』 の巻

「おっおっ 親かた様~ てえへんだぁ~!」
若い衆の大吉があわてて駆け込んで来たのは、八王子宿は三崎池の畔に有る古びた旅籠でございました。
「これこれ!! 大吉、朝っぱらから何を騒いでおるのだ」
あわてて自分の足に射してしまったもり箸を引き抜きながら
「そっそっそこの池の畔に行き倒れでごぜいやす~ あ゛~痛え痛え」
「何だと? 行き倒れだと? その方はまだ生きておられるのか? んっ そ~か、良かった。今宵は村の皆が楽しみにしておるお月見の晩。村から死人なんぞ出したら縁起が悪い。すぐにでっちの翔吉とその戸板に乗せて運んで来なさい。」
二人に運ばれて来たのは古汚い旅姿の痩せた老人でございました。

たまたま居合わせた蘭方医の二階庵のお見立てでは、極度の精神疲労と睡眠不足。目が覚めたら何か精の付く物でも食べさせて二、三日養生すれば直ぐに良くなるとの事でございました。

昼頃になってやっと目を覚ましたその老人は、そこが旅籠だと分かると
「これっ!!誰かおるか? ワシは腹がすいた。直ぐに飯の支度をしておくれ!!」

プリプリお刺身盛合せ

プリプリお刺身盛合せ

「そーだなぁ~ おかずは”刺身”の旨いところを少々。出来たら今が旬の秋刀魚なんか入れてもらえると嬉しいねぇ~」

「あとは

栗と茸の天ぷら

栗と茸の天ぷら

”きのこのてんぷら”、

蛤と舞茸の土瓶蒸し

蛤と舞茸の土瓶蒸し

”蛤と舞茸のどびん蒸し”、

里芋 栗饅頭

里芋 栗饅頭

”里芋の煮物”

秋刀魚 にぎり寿司

秋刀魚 にぎり寿司

〆には”秋刀魚の握り”なんか有るといいねぇ~」
「まぁ、取りあえず

焼き銀杏

焼き銀杏

”銀杏”でも焼いてもらって、ちょいとこんな事やってみるとするか~」
と杯を空ける仕草をする老人。するとそれを見ていた料理頭の飯蔵が
「これはいってぇ何の真似でございますか?」
「お前さん馬鹿な事を言っちゃーいけねぇよ。こーやりゃ~酒だろ~。こ~やって硫酸なんぞ飲むもんか~」
「そ~だなぁ、まず風呂に入るとするか、これ、そこの娘、湯は沸いておるか? 出て来たら旨い酒を用意しておいておくれ。そうさなぁ、この間、陸奥の国で飲んだ

日高見

日高見

”日高見”があったら五、六本冷やしておいておくれ」
と見習い女中の干安に言い付けておりました。江戸言葉に不慣れな干安ちゃんは、とりあえず冷たいお酒をひたすら老人に飲ませました。夜になって宿代が心配になった自称美人女将のあやがその老人にお会計を持って行くと
「ワシャー現金なんぞ持っておらん!! 平餅は使えるか? 平餅がだめなら西瓜はどうじゃ?」
などと餅やら瓜やら訳の分からない事を言い出すしまつ……

その頃、隣の大広間では村人達が大勢集まって、お月見の支度をしておりました。酒や肴を山の様に用意して、さぁこれからと言う時に、何処からともなく黒い雲が現われ、あっと言う間に満月をおおい隠してしまいました。
「あ~ぁっ、なんて事だ。これじゃ折角のお月見も中止するしかないのお~」
村長の臼爺のため息まじりのつぶやきが廊下で芸者のはる奴を追いかけ廻していた例の老人の耳に入りました。すると老人は何を思ったのか掴んでいたはる奴の帯を離し、人気女中のおまちとお淳に命じ墨とすずり、筆を用意させました。老人は襖の前で少し考えた後、襖に大きな月の絵を描き出しました。そしてその横に

吉田君の名月日記 Vol.38

”名月や池をめぐりて夜もすがら”

”名月や 池をめぐりて 夜もすがら”

としたためました。

そして老人がその襖を大きく開け放つとあれ不思議!! 襖に描かれた月の絵がスゥ~ッと襖から抜け出して、真っ暗な夜空に飛んで行き煌々と輝き出したではありませんか。ワァー!! 村中の人がビックリ仰天。勿論皆その老人に大変感謝して、その後三日三晩のお月見大宴会とあいなりました。四日目の朝になるとその老人は
「ワシャー今日が〆切りなんで、そろそろ暇するよ。」
っとぷいと何処かへと旅立って行きました。
残った襖の月の絵と俳句は旅籠の家宝となり、その噂を聞いた江戸中の旅人達が旅籠に泊りに来る様になり、いつしか”名月庵”と呼ばれ初め、永く繁盛したと言い伝えられております。尚、只今の”居酒屋 名月”の主人がその数十代目の子孫である事は小生だけの秘密に致しておきましょう。

追伸(1)
だんな様ときたら又、逃げ出してどこかへ雲隠れしてしまいました?  明日が”月刊 江戸俳句”の締め切り日なのに、これじゃー又、落としちゃいそうです。松島の時は僕が何とかごまかせたんですがねぇ~ 今回のお題は”名月”と簡単そうなんで、何とか一句ぐらいは詠めると安心していたのが、いけなかったみたいです。こんな事なら、だんな様に居場所が分かる仕掛けでも、持たせておけば良かったですぅ~?

”名月に 自位比意絵主を 付ける君”
--- 曽良 ---

追伸(2)
お久しぶりで~す。彼女で~す
最近、よく吉田くんと月へ宇宙旅行に行く夢を見ます。何故か吉田君は会社を止めて月へ行くと言ってます。私が
「別に会社を止めなくても月には行けるんじゃない?」
と言うと、いつもゾゾ~ッとした感じになって目が覚めます。何故でしょうか?
--- 彼女 ---

 

親方からのお知らせ

吉田君の日記を最後まで読んでいただいてありがとうございます。

今回は 先着100名様に 抹茶アイスクリーム をプレゼントいたします~ 🙂

御来店お待ちしております。

次回の「吉田君の名月日記」をお楽しみに!!

親方

『宴会飲み放題2時間コース』のご案内